大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和61年(ヨ)2336号 決定

債権者 合成化学産業労働組合連合 住友スリーエム労働組合

右代表者中央執行委員長 井手征男

〈ほか八名〉

右債権者ら訴訟代理人弁護士 秋山泰雄

同 萩原富保

同 関次郎

債務者 合成化学産業労働組合連合

右代表者中央執行委員長 宮内留吉

右訴訟代理人弁護士 西田公一

同 遠藤直哉

同 万場友章

主文

債権者らの申請をいずれも却下する。

申請費用は債権者らの負担とする。

理由

第一当事者の求める裁判

一  申請の趣旨

1  本案判決確定に至るまで、債務者が昭和六一年七月二六日から二八日にかけて開催された第七一回定期大会においてなした第一号議案「一九八七~八八年度運動方針(案)」、第二号議案「全民労協の連合組織移行と合化労連の対応」を承認する旨の決議の効力を停止する。

2  債務者代表者は右決議を執行してはならない。

3  本案判決確定に至るまで、債務者が前記大会でなした役員選任の効力を停止する。

4  右役員選任の効力停止期間中、債務者は、加藤進及び木村輝治をして債務者の副中央執行委員長の、南利和をして同財政部長の、小林憲二郎、中村秀雄及び清正巖をして同中央執行委員の、柳川誠及び鈴木隆をして同会計監査の各職務の執行をさせてはならない。

5  債権者石川二郎及び同工藤幸雄が債務者の副中央執行委員長の、債権者小野澤守及び同日高弘が中央執行委員の各職務を行う地位を有することを仮に定める。

二  申請の趣旨に対する答弁

主文第一項と同旨。

第二当裁判所の判断

一  当事者等

債務者は、合成化学産業に関連する労働組合をもって組織する連合体たる労働組合であること、債権者合成化学産業労働組合連合住友スリーエム労働組合、同日本労働組合総評議会合成化学産業労働組合連合日研化学労働組合、同合成化学産業労働組合連合日本曹達労働組合、同合成化学産業労働組合連合保土谷化学労働組合及び同三菱瓦斯化学労働組合はいずれも債務者の加盟組合たる労働組合であり、債権者石川二郎、同工藤幸男、同小野澤守及び同日高弘はいずれも債務者に加盟する労働組合の組合員であること、申請外加藤進及び同木村輝治は副中央執行委員長に、同南利和は財政部長に、同小林憲二郎、同中村秀雄及び同清正巖は中央執行委員に、同柳川誠及び同鈴木隆は会計監査に、それぞれ後記第七一回定期大会で改選された新任の役員であり、前記債権者石川二郎及び同工藤幸男は副中央執行委員長に、同小野澤守及び同日高弘は中央執行委員に、それぞれ昭和五九年に開催された債務者の第六八回定期大会において選任された右改選前の役員であることはいずれも当事者間に争いがない。

二  第一号議案決議、第二号議案決議及び役員選挙の存在

債務者は、昭和六一年七月二六日から同月二八日までの三日間、山口県文化スポーツセンターで第七一回定期大会を開催し、第一号議案「一九八七~八八年度運動方針(案)」及び第二号議案「全民労協の連合組織移行と合化労連の対応」の承認を決議し(以下、前者の決議を「第一号議案決議」、後者の決議を「第二号議案決議」という。)、また、役員選挙を実施して中央執行委員長、書記長及び財務部長各一名、副中央執行委員長七名、中央執行委員一〇名並びに会計監査二名を選出したことは当事者間に争いがない。

なお、本件疎明資料によれば、債務者の規約(以下、単に「規約」という。)第一六条には、大会付議事項として、「運営方針及び基本方針」(第2号)、「役員選挙」(第5号)、「上部団体への加入及び脱退」(第9号)、「その他、重要な事項」(第11号)等が掲げられていることが一応認められ、第一号議案が右第2号に、前記役員選挙が右第5号に該当することは明らかであり、第二号議案は、本件疎明資料によれば、債務者の加盟する全日本民間労働組合協議会が昭和六二年一一月をもって連合組織に移行することを決定したことに伴う債務者の対応の仕方を定めるものであることが一応認められるから、右第9号に直接該当するものではないが、これに準ずるものであって、右第11号に該当するものといえる。

三  第七一回定期大会の経緯

当事者間に争いのない事実及び本件疎明資料によれば、次の事実が一応認められる。

債務者には昭和五五年七月開催の第六四回定期大会における役員選挙を契機として運動方針をめぐる対立(以下、右対立における多数派を「主流派」、少数派を「反主流派」という。)が生じていたところ、前記第七一回定期大会では、第一日目は総数三六八名の代議員のうち三一六名が出席(委任状提出者を含む。以下同様。)し、大会の成立が確認され、議事は予定どおり進行したが、同日の日程終了後、同大会第三日目に実施予定の役員選挙の候補者をめぐって再び主流派、反主流派間に紛争が生じ、第二日目は代議員三二八名の出席が確認された後、大会は休憩とされ、両派間の調整が行われたが、解決を見ず、右代議員中反主流派代議員欠席のまま大会は再開されて第一号議案決議がなされ、第三日目は前記代議員総数の三分の二に達しない二二九名の代議員の出席により開始されて、第二号議案決議がなされ、また、前記役員選挙が実施された。

四  保全の必要性

債権者は、規約第二二条には「各機関はそれぞれ議決権ある構成員の三分の二以上の出席により成立し、出席議決権者の過半数で議決する。」と定められており、右規定の趣旨、運用の実態、構成員の規範意識等からすれば、右定足数の定めは、大会成立の要件というに留まらず、議事継続の要件でもあると解すべきところ、第一号議案決議、第二号議案決議及び前記役員選挙は右定足数を欠いた状態でなされたものであるから無効であると主張して、申請の趣旨記載の仮処分を求めるのであるが、仮に右各決議及び役員選挙が無効であるとしても、右仮処分は、以下の理由により、保全の必要性を欠くものといわざるを得ない。

1  当事者間に争いのない事実及び本件疎明資料によれば、昭和六一年一二月一二日、債務者の第七二回臨時大会が聞催され、総数二七五名の代議員のうち二五八名の代議員が出席し、前記第七一回定期大会の各決議及び投票結果の追認を求める旨の議案が提出されて、前記役員選挙については各被選出者毎に、その余の決議については各決議毎に直接無記名投票が行われ、いずれも二五五名の代議員が投票した結果、第一号議案決議については二四七名、第二号議案決議については二四〇名、前記役員選挙の各被選出者については二四五名ないし二四八名の賛成票が投じられて、これを追認する旨の決議がなされたことが一応認められる。

2  債権者らは、右臨時大会における決議についても、以下のとおり無効を主張するので、その主張について検討を加える。

(一) 先ず、債権者らは、前記第七一回定期大会は定足数を欠いた時点から休会になっているのであるから、この状態で開催し得る大会は第七一回定期大会と同一の代議員及び役員によって構成される同大会の続開大会のみであって、これとは別に右臨時大会を開催することは許されないと主張するが、右主張は、債務者の規約等にその根拠となる規定を認めることができないし、また、当然の理ということもできず、採用することができない。

(二) 次に、債権者らは、規約第一四条第一項には、大会は代議員及び役員で構成する旨の定めがあるところ、右臨時大会に参加した役員は、無効とされるべき前記第七一回定期大会の役員選挙により選出された役員であって、参加すべきでない役員が含まれているとともに、参加すべき役員が含まれておらず、右臨時大会の構成は右規定に反するものであると主張する。

しかしながら、本件疎明資料によれば、規約第二二条には、各機関は議決権ある構成員の三分の二以上の出席により成立する旨定められており、また、同第一四条三項には、大会で役員は議決権をもたない旨定められていることが一応認められ、これらの規定からすれば、役員の出席は大会の成立を左右するものではなく、また、大会決議の効力に影響を及ぼすものとも考え難い。

(三) 更に、債権者らは、前記七一回定期大会以降、債務者においては、同大会における無効な役員選挙で選出された中央執行委員により構成される中央執行委員会が同大会における無効な決議を執行しているため、債権者組合ら反主流派組合は、債務者に対する労連費(組合費)の納入を凍結していたところ、債務者は、右労連費の未納を理由に債権者組合ら反主流派組合を排除して右臨時大会を開催したものであって、このようにして開催された右臨時大会において、前記第七一回定期大会における決議及び役員選挙の無効を前提として、同大会に提出された議案と同一の議案を再提出し、可決することは許されないと主張する。

しかしながら、当事者間に争いのない事実及び本件疎明資料によれば、規約第一〇条には、加盟組合は労連費を納入する義務を有する旨定められており、債務者の大会議事規定第四条第二項には、大会開催日の属する月より起算して前々月までの労連費を完納している組合でなければ、代議員を選出し、出席させることはできない旨定められているところ、債権者組合ら反主流派組合は、第七一回定期大会における無効な役員選挙で選出された中央執行委員により構成される中央執行委員会が同大会における無効な決議を執行していることを理由として、労連費納入を凍結するとして、昭和六一年一〇月以前からこれを納入していなかったこと、債務者は、同年一一月一九日、右債権者組合ら反主流派組合を含む労連費未納入組合に対し、同年一〇月分までの労連費を完納していなければ、右臨時大会につき代議員を選出し、出席させる資格が失われる旨を付記して、同月二九日までに右労連費を納入するよう催告したが、債権者ら反主流派三六組合は、同月二七日、右納入を拒否する旨の回答書を債務者に提出したこと、そこで、債務者は、右債権者ら反主流派組合を含む労連費未納入組合を、右臨時大会について代議員を選出し、出席させる資格を欠くものと認め、同大会における代議員総数を二七五名と確定し、右臨時大会を開催し、前記のとおり決議したことが一応認められる。

そして、右労連費の納入義務は中央執行委員会の適正な構成及び業務執行を前提とするものとは解し難く、債務者の中央執行委員会が無効な役員選挙により選任された中央執行委員により構成されており、無効な大会決議を執行しているとしても、依然、右債権者組合ら反主流派組合は労連費納入義務を負うものというべきであるから、前記大会議事規定の適用により、右債権者組合ら反主流派組合が右臨時大会について代議員を選出し、出席させる資格を欠くものと認めた債務者の措置に瑕疵はなく、また、このようにして右債権者組合ら反主流派組合が代議員を参加させることができなくなった右臨時大会において、右債権者組合ら反主流派組合が効力を争う前記第七一回定期大会の各決議及び役員選挙結果を追認する旨の決議をすることが妨げられるとされる理由もない。更に、債務者は、前記催告によって、右臨時大会に代議員を出席させる十分な機会を与えているといえるから、右臨時大会の開催及び決議が信義則に反するものともいえない。したがって、この点についての債権者らの主張も採用できない。

以上のとおり、債権者らの右臨時大会の決議が無効であるとする主張は認めることが出来ない。

なお、本件疎明資料によれば、規約第一四条第一項には、大会は中央執行委員長が招集する旨定められているところ、右臨時大会は、前記第七一回定期大会の役員選挙で中央執行委員長に選任された宮内留吉が招集したものであるることが一応認められるが、右役員選挙が無効であるとしても、本件疎明資料によれば、同人は従前からの中央執行委員長で、任期満了により右役員選挙で再任された者であること、規約第二六条第三項には、役員は退任または任期満了の後であっても後任者が選出されるまでは引続きその任務を遂行する旨定められていることが一応認められるから、同人は依然、中央執行委員長の権限を有するのであって、この点についても、瑕疵は認められない。

3  そこで、次に、右臨時大会における、第一号議案決議、第二号議案決議及び前記役員選挙結果を追認する旨の決議の効果につき検討する。

定足数を欠くために無効とされる大会決議または役員選挙が、後に開催された別個の大会の決議で追認されたとしても、その瑕疵が治癒されて有効なものに転ずるものとはいい難い。しかしながら、右追認決議において、実質的に右大会決議または役員選挙がなされたに等しい意思形成が行われたと認められる場合には、右追認決議に右大会決議または役員選挙がなされたと同様な効果を認めるべきである。

そこで、先ず、第一号議案決議及び第二号議案決議を追認する旨の決議について考えるに、右追認決議には第一号議案及び第二号議案を承認する意思も含まれているものと見ることができるところ、前記1記載のとおり、右追認決議においては、各議案毎に直接無記名投票が行われ、いずれも出席代議員の過半数の賛成票が投じられており、本件疎明資料によれば、債務者の大会議事規定第二六条には、採決の一方法として無記名投票が掲げられており、規約第二二条には、同盟罷業の場合を除き、各機関は出席議決権者の過半数で議決する旨定められていることが一応認められるのであるから、右追認決議において、第一号議案及び第二号議案の各承認を決議するに十分な意思形成が行われたものと認めることができ、これにより右議案が承認されたと同様の効果が生じたものとすることができる。

次に、前記役員選挙を追認する旨の決議について考えるに、右追認決議は、前記役員選挙の被選出者を当該役員の地位に就かせる意思を含むものと見ることができる。そして、前記1のとおり、右追認決議においては、被選出者毎に直接無記名投票が行われ、いずれも投票総数の過半数の賛成票が投じられているのであるが、本件疎明資料によれば、債務者の役員選挙規定第三条には、選挙は直接無記名投票によって行う旨定められていること、前記役員選挙の副中央執行委員長を除く各役員の立候補者数は、いずれも定数以内であったところ、同第六条には、候補者が定数を超えない場合には信任投票を行うものとし、信任は投票総数の過半数の得票を要するものとする旨定められていること、副中央執行委員長については、定数七名に対し一〇名の立候補者があったが、債務者には、副中央執行委員長は業種別に分けられた七グループから各一名ずつ選任する取り決めがあったところ、そのうち三グループにつき各二名ずつの立候補者が出たものであって、同第三条には、副中央執行委員長は制限連記投票とする旨、同第四条第2号には、連記投票は有効投票の最多数を得た者より順次当選とする(ただし、有効投票の過半数に満たない場合は当選としない。)旨の規定はあるが、実際には、右三グループの各二名ずつの立候補者のうち、有効投票の過半数を得た一方の者が当選することとなるものであることが一応認められるから、右追認決議についても役員選出の効果を認めるべきものといえる。

4  以上のとおり、右臨時大会における追認決議によって、第一号議案決議、第二号議案決議及び前記役員選挙が有効である場合と同様な効果が既に発生しているものといえるから、申請の趣旨記載の仮処分の必要性は失われているものというべきである。

五  結論

よって、本件申請は、保全の必要性についての疎明がないというべきであり、保証を立てさせてこれにかえることも相当でないから、却下することとし、申請費用につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 川添利賢)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例